「親が認知症になったら実家が売れない?」施設費用を捻出するための「不動産の家族信託」契約と売却実務

この記事のポイント(30秒で把握)
  • 親名義の実家は「認知症の診断」が下りた瞬間に売却できなくなる:意思能力を失った高齢者は売買契約や登記手続きを行えません。親を施設へ入れた後に「実家を売って入居一時金に充てる」計画は完全に破綻します。
  • 成年後見制度では「居住用不動産の処分許可」という高い壁がある:裁判所の許可が必要となり、売却理由が厳しく制限される上、買い手が見つかっても迅速な契約が困難です。
  • 元気なうちに「実家を家族信託」しておけば、子が単独で売却・契約・登記できる:親を「委託者兼受益者」、子を「受託者」として信託登記を済ませておけば、親の認知症後も子が代理人としてスムーズに売却代金を回収できます。
  • 家族信託の制度全体や費用相場は総合ガイドで確認:不動産以外の預貯金管理や信託契約の全体像は、当サイトの総合ガイド記事(No.297)をあわせてご確認ください。

1. 「実家を売って老人ホームに入れたい」が通用しない!認知症による不動産塩漬けの恐怖

「親の足腰が弱り、認知症の初期症状も出てきたので、老人ホームへの入居を検討している」
「実家を売却すれば1,000万〜2,000万円にはなるはずだから、そのお金で施設の一時金や月額費用をまかなおう」――。

多くの家族(PER-01、PER-05)が描くこの資金計画には、法律上の致命的な落とし穴が存在します。

日本の法律では、所有者本人に「意思能力(契約の内容を理解し判断する力)」がない場合、不動産の売買契約や所有権移転登記は一切認められません。つまり、親の認知症が進行した後に実家を売ろうとしても、不動産会社にも司法書士にも契約を拒絶され、実家は完全な「塩漬け(売ることも貸すこともできない空き家)」になってしまうのです。

2. 成年後見制度(法定後見)による実家売却が極めて困難な理由

「認知症になった後でも、成年後見人を立てれば実家を売れるのではないか?」と考える方が多くいますが、ここにも厳しい現実があります。

比較項目 成年後見制度による実家売却 不動産の家族信託による実家売却
契約の権限 家庭裁判所が選任した成年後見人 信託契約で指定された受託者(子)
家庭裁判所の許可 必須(居住用不動産の処分許可が必要) 不要(家族の判断のみで即座に売却可能)
売却の難易度 「売却しなければ生活が破綻する」切実な証拠が必要。許可が下りるまで数ヶ月要する。 親が施設に入居した最適なタイミングで、市場価格に合わせて迅速に売却できる。
継続コスト 後見人への報酬が毎月2万〜6万円、一生涯発生する。 家族間の管理のため、月額の管理報酬は0円。

3. 実家を家族信託する「基本の3大スキーム」

実家の塩漬けを防ぐための家族信託は、極めてシンプルな設計で成り立ちます。

Role 1
委託者(親)= 実家の現在の所有者
元気なうちに「将来の介護資金を捻出するため、実家の管理・売却権限を子に託す」という信託契約を締結します。
Role 2
受託者(子)= 実際に管理・売却を行う実行役
実家の所有権(形式上の名義)を信託登記により預かります。親が認知症になった後も、受託者自身の判断で不動産仲介会社と媒介契約を結び、売買契約を締結できます。
Role 3
受益者(親)= 売却代金の恩恵を受け取る人
実家が売れた代金(現金)はすべて「親のもの」となります。贈与税は一切発生せず、売却代金はそのまま親の老人ホーム費用や医療費として管理されます。

4. 実家信託から売却完了までの実践4ステップ

親の意思能力が保たれているうちに、以下の手順で手続きを進めましょう。

実家の家族信託〜売却実務チェックリスト
  • ステップ1:家族会議で他の兄弟の同意を得る:長男を受託者にする場合、他の兄弟に「親の介護費用を作るための信託であり、生前贈与ではない」ことを説明し、合意を形成します。
  • ステップ2:司法書士等の専門家と信託契約書を作成する:実家の売却権限、売却代金の管理方法、親の死後の残余財産の行方を公正証書で作成します。
  • ステップ3:法務局で「信託登記」を行う:実家の登記簿謄本に「信託」の旨と受託者(子)の名義を登記します。これにより対抗要件が備わります。
  • ステップ4:親の施設入所後、子が主導して不動産を売却:親が老人ホームへ入居し空き家となった段階で、子が売却活動を開始。代金を信託口口座で受領し、施設費用に充当します。

5. 家族信託の全体像や費用相場は総合ガイドで確認しよう

家族信託の基本的な仕組み、預貯金信託を含めた全体費用、契約前の注意点については、当サイトの総合ガイド記事をご覧ください。

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